永井龍雲 Official Web Site

お問い合わせ

ホーム > From 龍雲

From 龍雲

お店を出たのは朝の5時。すでに夜明けが始まろうとしていた。

お店を出たのは朝の5時。すでに夜明けが始まろうとしていた。カウンターに座ってこの日一体、何杯めの水割りだろう、酔いも峠を超えて喉の乾きをただ潤わすだけにしかグラスを口に運ばなくなっていた。
静かに今日一日の出来事を一人カウンターでしみじみ考えてみたい、男にはそんな誰にも干渉されない時間が時として水のように必要である。

 

カラオケの入ったそのスナックには何度か来ていて馴染みというほどでもないが痩せて美人のママとは同郷という好みもあってお互い気の合う間柄だった。
20人ばかりの客はそれぞれに上質で、代わる代わるにマイクをゆずり合い、小声で会話を交わしつつも他の人の歌が終われば笑顔で軽い拍手を返す。聴くのでもなくまた聴かないでもなく、カラオケにおける洗練されたマナーというのは全くこのようなものであろうかと思わせるような雰囲気がナチュラルに作られていた。
今、立ち上がり歌を唄っている常連の客は紳士を絵に描いたようなお方で、替歌にエスプリがきいていて、しかしそれでいて嫌味が全くなく、およそ誰かにひんしゅくを買うようなことはこの方に限っては人生に一度だってありえなかっただろうと断言できた。
私自身はハイソな三人の淑女と隣りあわせホホホの笑い方でその高貴さがうかがえるような、ここは英国王室? と錯覚さえした。
淑女の隣り、恋多き女性との恋愛に悩み多き孤独が良く似合うデカプリオを彷彿させるような横顔の青年。長渕剛の曲を唄わせたら、長渕も崖っぷち、といったようなパフォーマンス。
カウンター中央では、豪華クルーザーでのバカンスの帰りにちょっと立ち寄ったというような日焼けした彫りの深い大富豪オナシス顔の中年紳士。ハリウッド女優も顔負けのゴージャスな女性たちを両脇に侍らかし、彼の歌に合わせて踊るダンサーときたら男たちを悩殺せずにはおかない羽衣を着た天女。
さらにさらにその奥、高級レストランのオーナー風紳士。梳っても梳ってもその豊かな髪はあまりのしなやかさゆえ、風に大いに戯れ、髪をうっとうしげに左手でかきあげる仕草がまるで夢のよう。今夜も粋な着物姿で、歌を唄わせれば、松山千春に声はもちろんのこと、何故かルックスまでそっくり。芸の力とはこんなにもすごいものかと驚かされる。オー・マイ・ゴッド。

 

これが10年目、里帰りコンサート・ファイナル、打ち上げ最後の瞬間であった。この文章には少しばかりの仕掛けをしている。ポジとネガのようにその意味をひっくり返して読んでいただいたらなお一層、意味鮮明になるだろう。

 

里帰りコンサートにお呼びしたゲストは
三浦和人、鈴木康博、因幡晃、杉田二郎、細坪基佳、山本潤子、太田裕美、庄野真代、イルカ、豊島たづみ、中澤裕子、堀内孝雄。皆さんありがとうございました。
実行委員長森のブックボックス西村君始め、同級生、同窓生、そして故郷の皆さん、ファンの皆さん本当にありがとうございました。

 

田舎に歌で恩返しをとの思いで始めたこの企画、恩返しどころかさらに大きな喜びを頂きました。とりあえず、このイベントは終了しますが、ソロとして九州一円をツアーして回るのは今後も変わりありません。人間としてひと回り大きくなって60ぐらいになって、また故郷でこんなイベントができたら最高だと思っています。本当にご声援ありがとうございました。

 

2010年9月1日