朝、目覚めてベランダの窓を開けたら、生暖かい湿気を含んだ風と一緒に、あの肌を焦がすような騒がしい蝉の羽音の固まりが部屋に舞い込んできた。そろそろ梅雨明けも一両日に迫っているのだろう。(6/29現在)
娘達の住むロサンゼルス訪問の旅を終えて、11時間半のフライト後ようやく関西空港に降り立てば、折しもG20のサミット開幕中と言うことで大阪は厳重警戒で大変なことになっていると機内のニュースなどで聞いていたが、空港内は夜も遅いせいか見たところいつもと変わらない様子であった。
沖縄への乗り継ぎのためゲートを過ぎて、そこに若い警察官が二人警備に当たっていたが、その前を通りすぎる時二人の話し声が聞こえて、ポイントがどうたらこうたら言っているのが耳に入って来た。多分、ゲートを通過する旅行者を見ながら、来るべき自分達の休暇のプランなどのことを話していたのだろうが、テロの警戒中と言うにしてはのんびりとした我が日本国で少し微笑ましかった。
今回初めてだったが、関空にも入国審査に顔認証システムが導入されており、日本人なら機械にパスポートをかざして、正面のカメラを見るだけで、1分もかからず審査をパスすることができる。ロサンゼルスの入国審査であれば顔認証の後でもう一度審査官のチェックが必要になる。
今パスポートを確認してわかったのだが、審査官に出国時に押される判子はあったが、今まであった帰国時に押される判子は、機械による顔認証が導入されたことによって押されていなかった。
自国民が入国するのは簡素化され、外国人の入国には厳しくというのは、各国自国ファースト主義があからさまな今の時代を思うなら仕方のないことなのだろう。
アメリカ滞在中、ニュースでずっと報道されていたのが、メキシコとの国境沿いを流れるリオグランデ川でアメリカ入国を試みたエルサルバドルの若い父親と2歳の娘の重なるように水にうつ伏した溺死体の写真だった。背中に娘を背負って泳いでいたのだろうか、最後は幼き娘の手が父親の首に回されて生き絶えていたのを見ると、心が痛まない人はいないだろう。さすがのトランプ大統領もコメントをして、悲しいことだ、とか言ったその舌の根も乾かぬうちに、それは自分の移民排斥の政策のせいではない、その責任は民主党にあると無茶苦茶な論理を展開していた。
このサミットで移民問題がテーマに上がるのかどうかは知らないが、各国とも緩やかな温情のあるしかし統制のとれた移民受け入れ政策ができないものか、そんな何らかの合意に達しないものかと、この移民親子の溺死写真を目にしてやきもきしている。
来年のトランプ大統領の再選を阻む候補として反対党の民主党から20人近く候補者が乱立しているようだが、早く一本化してトランプ大統領をとにかく再選させないようにしてほしい。そうしないと、世界中で排他主義、右傾化がさらに進み、その結果戦争へと発展しそうで本当に気が気でない。
そんなアメリカで生活する二人の娘も大学を卒業して、長女は来年から、次女は今年から就職して、日本で暮らす自分には想像もつかないアメリカ社会に飛び出すことになる。アルバム「沖縄物語」のジャケットのあの二人がである。父親として誇らしいと言うべきであろうが、実際は心痛い。果たして自分と同じような辛さを味わわずに生きて行けるか心配で。エルサルバドルの移民親子の父親のように自分も娘の将来を思って必死で泳いで生きて来た。でも娘を絶対亡くすわけにはいかない。
カリフォルニア州の地図を見てほしい。今回、メキシコとの国境の町サンディエゴからサンフランシスコまで車でドライブした。かなりの距離であるのがわかってもらえるだろう。その間ほとんど娘達二人で交代の運転である。途中、割り込んで来た車に対する悪態のつき方を後部座席から見ていて、案外、自分より逞しい姿に少し安心して、気弱な父は帰国して来たところである。