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故郷に帰省している。

故郷に帰省している。
今年で9年目になる「里帰りコンサート」のためである。
いつの間にか名付けられていた「里帰り」というタイトルが感覚として面映くもあったが、このイベントを基本的に支えてくれている友人達にとっては「お帰り」というまさしくそんな気持ちでずっと応援して来てくれたのだろう。ありがたいことである。
9年目の今年のゲストは、イルカさん。やっとここにたどり着いた感じだ。と言うのも、このコンサートを始める動機と深く関係しているからだ。

 

僕が最初に目にした芸能人は舟木一夫さんだった。何らかの電気製品を買ったかしてもらったチケットで今年の会場、行橋市民会館で姉二人と最前列で見た。僕が小学校低学年の頃で、舟木さんはその頃、人気絶頂期だったのではなかったかと思う。
初めて目の当たりにする芸能人は今で言うところのオーラがあると言うのか輝いて見え、潜在意識の中に~僕も歌手になりたい~と言う思いが知らず知らず芽生えていたのだろう。
それから十数年が経ち、僕が高校三年の時に同じ市民会館にイルカさんが来た。この頃はもうフォークにはまっていて、卒業したら大学に進むのはやめて東京に行って歌の世界に入ろうと思い始めていた頃で、コンサートの中でイルカさんが「私のスタッフのオールナイトニッポンでお馴染みの銀バエこと陣山さんはこの町出身で…」とおっしゃった時に、「ヘェ、こんな田舎町にもそんな先輩がいたのか。よし、上京したら訪ねて行って、まず、歌を聞いてもらおう」と勝手に思い決めていた。実際その通り上京してアルバイトも決め、ニヶ月ほどして落ち着いた頃、陣山さんに電話でアポを取って原宿にあったユイ音楽工房の事務所を訪ねた。丁寧にもこんな若造に社長以下幹部の方達を紹介してくれ、あらかじめ送っておいたデモテープの感想を聞かせてもらった。結果は、時期尚早と言うことで当然のようにすぐにデビューとはならず、それなりにショックを受けて帰ろうとすると、「これでボブ・ディランを聞きなさい」と5千円を手渡された。正直その時はその5千円の重さも夢の挫折感から理解できず、当時2500円のディランのLPを2枚買って、聴いてみてもあまりピンとこず、その後、僕の方から連絡することはなかった。
それからまた数十年が経ち、デビューも果たし、五木さんの「暖簾」も出て作家としての顔も持つようになって、今から7、8年ほど前、キムランヒさんに楽曲提供の件で初めて仕事を一緒にさせていただいた。陣山さんもユイ音楽工房から独立してスタジオを経営なさってたりしていた。その時初めてお酒も一緒に飲んで、御無沙汰を詫びたり、田舎の話をしたり、自分もやっと陣山さんと仕事もできて酒も飲めるところまで来れたんだなぁと思うと、感慨深いものがあった。

 

そろそろ故郷に目を向ける余裕もできて、今度は自分が何かを残す時だなと思った時、「そうだ、舟木さんのショウーを見た少年が歌手になることを夢見たように、陣山さんによって故郷にも東京の音楽界で活躍する先輩がいることを知って勇気をもらったように、毎年ゲストを迎えてコンサートを開いて、自分と同じように、田舎の少年の誰か一人でも夢を見つけてくれたら、何年続くかわからないけど、とにかくやってみよう」そしてそんな思いのままに9年が経った。

 

昨年の秋、東京でイルカさんのラジオ番組のゲストに出させていただいた時、イルカさんのコンサートで陣山さんを知ったことなどを話し、是非今年のゲストにとお願いしたら、「じゃぁ、陣ちゃんも呼んでコンサートをやろうか」と快諾していただいた。
しかし、残念にもそれを実現することは叶わなかった。
イルカさんとそんな話をした一ヵ月後、陣山さんは帰らぬ人になってしまった。

 

僕自身のこんな思いもあり、イルカさんを何回めかに迎えて10年で幕、といった構想でいえば9年目の今年がある意味ではこのコンサートの集大成と言えるかもしれない。とはいえ、今年も故郷のみなさんに喜んでいただき、来年10年目のフィナーレが盛り上がるようにと繋げなければいけないのは、もちろんのことである。

 

2009年8月1日