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歳を取って誰もが一度は口にする言葉

歳を取って誰もが一度は口にする言葉、「今の若いやつときたら」その後に続く言葉は大体、「だらしない」とか「よく分からない」とか、どちらかと言うと否定的な言葉がくる筈である。ところが最近は「今の若いやつときたら、本当にスゴイ」と、おじさん、おばさん達は宇宙人と出くわしたように目を剥くばかりである。
卓球の「チョレイ」のユニークな掛け声でおなじみの張本智和君14歳しかり、陸上の100m200mで直近の大会を制したサニブラウン・アブデル・ハキーム君18歳しかり、自分が知らないだけなのであろうが、スポーツ界のみならずあらゆる分野で過去の常識を覆すスゴイ若者達が育って来ているように思える。
その中にあって今、連日のようにニュースで取り上げられている若者といえば、将棋界に彗星のように現れた藤井聡太四段。まだ14歳中学生なのにデビュー戦で加藤一二三九段76歳を破って以来29連勝の新記録を打ち立て、さらに連勝記録を延ばす勢いである。対局後のインタビューを見ても、勝利に気負うこともなく淡々として、言葉を選びつつそれに応じる態度は、「本当に14歳?」と14歳当時の自分を省みて呆然とするのみである。報道されているところによれば、藤井四段の一手は他のどんな棋士よりもコンピューターが最善を予測する一手に近いそうで、コンピューターとの対局で硏究を重ねた世代の申し子と言えるかもしれない。
とこう言うこの私も少年時代、将棋に没頭した経験をわずかに持ち、その面白さ、奥深さを、バケツに張った薄氷程度には知っている。
確か、小学校の5・6年の頃、クラス担任の男性教師がある日唐突に、「クラスで将棋大会をします」と宣言した。その頃、確かに昼休みやなんかに学年で将棋が流行っていた記憶があり、それでそんなことになったのだと思うが、今から思えばクラス中でどれぐらい将棋が指せる生徒がいたんだろう。僕自身は全くそれまでは将棋などに興味がなく、昼休みになれば外に飛び出して野球ばかりやっていた。

日の暮れるまで校庭や近くの神社で遊んで家に帰ってみると、部屋の奥から今日も父と母の諍う声が聞こえる。と直ぐもう慣れたものでこっそりランドセルを置いて、近所の友達の家に遊びに行く。そこの家には大体、我が家の兄弟と近い歳の構成の子供がいて、最近知ったのだが、兄も夫婦喧嘩の時はそこの長男を頼って避難していたらしい。
実はそこの4人兄弟のお父さん。そこのおじちゃんが僕の将棋の師匠なのである。クラスで将棋大会がある旨を話していたら、「龍ちゃん知らんやったら教えてやる」と言ってくれて、そこから毎日の大特訓である。ルールも何も知らないところから始めて、「桂の高飛び歩の餌食」
とかの格言をひょうきんに言うおじちゃんに最初のうちは簡単にあしらわれていたが、重ねる対局ごとに段々と腕を上げ、その月の終わりにはおじちゃんを負かせるようになっていた。嘘か真かは知らないが、そのおじちゃんも自分は有段者と語っていたから、僕もそこそこの強さにはなっていたのだろう。結局、クラスの将棋大会では、覚えて一月足らずで第3位となり特訓の成果を示した。
あのまま将棋を続けていたら今頃有段者になっていただろうと想像するが、棋士になるなんてあの頃、子供の夢としては無きに等しいものだった。今、また静かな将棋ブームが巻き起こっているが、ちょっとまた差してみたい衝動にかられる。
家からの避難場所で覚えた将棋。将棋と聞けばいつもあの頃を思い出し、心が少しだけ普通とは違う。