この度、自らの選曲で楽譜集を作った。
近年、特に男性ファンの方達から楽譜出版の要望が多く、ライヴ終演後のサイン会に、デビュー当時に幾つかの出版社から発売された恐ろしく頭のデカい写真が表紙にのった楽譜を持って来て、「最近の曲の楽譜を早く出して下さい」「そうだね。近いうちに出しますよ」とか言いながら、使い古された本にサインを頼まれたりして数年をやりすごして来た。楽譜集なんていつでも作れるという思いから結局は後回しにして来たわけだが、いざ作ろうと思ったら、何をどう誰に頼んでいいのかわからず、考えてみれば、以前の楽譜集は出版社がある意味勝手に作って出してたみたいなもので、いっさい自分は関わっていない。さぁ、約束したもののどうすべかと、デカいだけで脳味噌の足らない頭で考えてみても始まらない、そうだ、スタッフに聞いてみよう。「楽譜集作りたいんだけど」「簡単にできますよ」「そうか、簡単にできるか」と簡単という言葉にひどく安心して、「そうか簡単か」とつぶやきながら酒を飲んで毎度簡単に寝ていた。
で、そんなこんなが、何で今回めでたく楽譜集発売のきっかけになったかというと、昨年のある時、高校の一年後輩から、自分達のバンドが毎年東京で行っているコンサートに是非出演して欲しいとの電話だったかメールだったかをいただき、故郷のましてや後輩の頼みであれば無下に断ることもできず、遊びに行くことを約束した。不覚にも。
日曜日の当日、会場になっていた赤坂のライブハウスに行ってみると、『錦綾バンド』という彼らのバンドの演奏はすでに始まっており、入れ替わり立ち替わり、彼らの演奏をバックに唄う人達がいて、後で聞くところによれば、彼らの家族であったり、仕事の知り合いであったり、またプロのミュージシャンであったりと様々で、お客さんはというと、東京近郊に住む故郷出身者が大半で、中には偶然、顔見知りの同級生などもいたりして、なかなかの盛況ぶりであった。
後輩の『錦綾バンド』をバックに決して演奏ではなく酒に半ば酔いしれ2、3曲唄い、まるで東京にいて故郷で歌っているような不思議な感覚に陥り、自分自身も多いに楽しむことができた。
打ち上げになって、後輩達と酒を飲みながら故郷の話しで盛り上がり、知った顔もいれば、忘れた顔もいて、改めて紹介してもらうと、当然色んな職種に携わっていて、それぞれに東京で頑張っているとのこと。ギター弾きもいて、カメラマンもいて、印刷屋もいて。少し間があって、そこで閃いた。「そうだ!楽譜集、後輩の彼等に頼もう」
という、まことに自分勝手な思いつきが今回の楽譜集出版にやっと漕ぎつけたきっかけで、この楽譜集は故郷の後輩達なくしては決してできなかったものである。持つべきものは故郷の友。
採譜してくれたプロのギターリストの中野、彼は中学時代の野球部の後輩でもある。カメラマンの大森、アルバム『11』の写真は彼の手による。印刷をお願いした亀田。そして宇野を始めとする『錦綾バンド』のみんなありがとう。敬称は省くぞ。今年もコンサートがんばれよ。また、遊びに行くからな。暇なら。
2014年10月