2008年3月15日、東京は新橋のヤクルトホールでおこなった<デビュー30周年記念コンサート~転生の時~>のビデオを見ている。サポートにギター、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの編成。今より少しロン毛で、体重も2,3kg軽いように見える。白いジャケットにジーンズ。ちょっとしたハプニングもあったけれど、総じて良いステージだったと記憶している。今回この模様をDVDにして5月3日渋谷のさくらホールの会場で限定で販売するべく準備を進めている。
ここ数年、年一度の東京のホールでおこなうコンサートでは、数名のサポート・ミュージシャンに手伝いをお願いして来たが、5月3日のさくらホールでは全くのソロで弾き語ろうと思っている。理由の一つには、これから続くデビュー35周年記念ライブの締め括りとして来年もう一度東京でコンサートを企画中で、その時は逆にサポートメンバーを増やし重厚なサウンドで聴いていただけるステージをと考えているからだ。
今回、ソロの弾き語りの理由、突き詰めれば、やっぱり原点回帰か。僕の中に歌はまずはヴォーカルだという思いがある。詞、曲、パフォーマンスももちろん大事だが、その前に聴衆を圧倒するヴォーカルがなければ、そのいずれも完結しない。僕の場合、ヴォーカルが訴える力を失ってしまっていたら、今後どんな名曲を書いても、どんな演出に優れたコンサートをしても心の中の喜びは半減しているだろう。シンガー・ソング・ライターとしてこれまでもこれからも成したいことはただ一つ。人生の不条理を歌にして、むきだしの永井龍雲が認められること。そのヴォーカルには間違いなく人生の、もっと言えば宿命の喜怒哀楽が込められているし、そしてそのヴォーカルが一番聴衆に届くのが、弾き語りなのだ。
昨今の加工された音楽が主流の中であえて弾き語りで勝負するのは、永井龍雲の真骨頂はこれだと確信しているし、ここからもう一度スタートしてみようと言う思いが強くある。これを原点として何か自分の想像を超えた自分に出会いたい。今の閉塞感を打破し、突き抜けた場所に立つ自分を感じたい。今年のツアー・タイトルを「展(ひらく)」としたのも、こんな切実な願いからだった。
結局、人生は開かれた自分を、つまり心の開放を追い求める旅ではないかと思う。人それぞれに色んな求め方があって、僕にとってはそんな自分探しの究極の方法を考える時、それは自分世界を余すことなく表現できる、ある意味孤独な弾き語りの世界なのではないかと思っている。
35周年記念コンサート東京、企画第一弾さくらホールは、何の衒いもなく、心のままに存分に唄っての、今回は弾き語り真っ向勝負である。
2012年4月1日