いろんな人から「龍雲さん、もうすぐラスベガスですね。楽しんで来て下さい」と言われ、「ぇえ?」と、何で皆んな俺のプライベートな旅行のことまで知っているわけ? あれ!もしかしたらスタッフの内に情報を横流ししているスパイがいるな?根岸か? それとも社長か? とか疑っていたら、何の事はない。自分で昨年の3月のホームページのメッセージの中で「毎年恒例の年初めラスベガス旅行」と堂々と書いているではないか。ライブのスケジュールを見てこの時期に何も入れていないのは、このためかと誰でも思うのは当たり前である。(疑った二人には誠に申しわけないことをした。いや、失敬。罪滅ぼしではないが二人には、僕が作詞作曲を手がけて、今、頑張っていらっしゃる青森出身の演歌歌手青戸健さんの「昭和名残り唄」のカラオケの映像で恋人役として出演して頂いた。是非、カラオケにお出かけの際は二人の演技力を見て頂きたい。)
そう。そのためなのだが。
しかし、楽しかるべきラスベガス旅行が今年は惨憺たるものだった。
なに、初めは良かった。
娘達も丁度、何かで学校の休みに当たり、ラスベガスに行きたいって言うものだから、年齢的にもそろそろ向こうの一流のエンターテイメントのショウーを見せるのもいいかと連れて行くことにして、親として密かに宇多田ヒカルの、いや浅田真央ちゃんの、いやイチローの、いややっぱりダルビッシュの親を目指す私としては、彼等も最初は幼き頃親から手を引かれ、それぞれのジャンルでのスタートをきったことを思えば、この旅行は我々親子のやがて来るべき未来を思えば感慨深いものがあった。そのためにも後で自叙伝のいちハイライトとなるスーパースターの親として立派なエピソードを残しておこうと僕自身もハリキリ、娘達もパパがスロットルで勝ったら何を買ってもらえるかと、少し両者違和感がありながらも楽しんでいた。 それがである。 ラスベガスに行く前のハワイでまずはスピード違反で捕まるハメになり、肥満で白人のいかにも人種偏見のありそうな白バイのおまわりに25kmオーバーで157ドルの罰金を科せられた。パリハイウェイという南北を貫く下り坂で80kmが当たり前の自動車専用道路が、急に市街に入る直前で制限速度が35kmになっているのに気がつかず、旅行者の自分はただ車の流れに乗って走っていたにもかかわらず、停められ御用となった。罰金は郵便で決められた期日までに払えばよく、すぐに渡された封筒に現金を入れて送ったが、娘達の反応は冷ややかなものがあった。
まぁ、これぐらいならと気を取り戻し、すわラスベガスと、15年以上使って鍵も閉まらなくなったトランクを、これまでの旅の無事を感謝する祈りとともにハワイで捨て、新しく少し高級の最新のトランクに買い替えて、三人の荷物をそれに詰め込んで、パスポートの忘れはないか、パンツは足りているかと娘達にくどいほど確認し、万全を期してラスベガスに向かった。
はずであったが、
あろうことかこの親の私が経由地のロサンゼルスからラスベガスに乗り入れるアメリカン航空の飛行機内にパスポートを落として来てしまったのだ。ホテルにチェックインする時にないのを気づいたのだが、その飛行機に搭乗する直前まで持っていたことは自信があり、マッカラン空港からホテルまでのタクシーの中の可能性もあるが、ショルダーバッグから財布だけを取り出した記憶もしっかりしているので、飛行機の座席周りしか考えられない。ラスベガスに着いた時間も遅く、予約を入れたショウーの時間も迫っていたので、次の日の朝目覚めるとすぐに空港にとって返し、遺失物取扱所で届けられていないかを確認に行き、いないので空港ポリスで紛失届を出しに行った。一応、これだけのことをしていれば日本では見つかることの方が多いのだが、アメリカン航空の対応も雑で、結局、明日帰国する今の今までに何の音沙汰もない。
アメリカン航空は今、破産法を申請しておりそのためか従業員の士気が低下して感ぜられ、(なんと皆さん聞いてください。買ったばかりのピカピカ新品の高級トランクがボロボロに傷を入れられ戻って来たのです。例えるなら、見目麗しき美少女が一夜にしてしわくちゃの老婆に変身してしまったと言いましょうか。)印象的に、サービス提供以前に、どこか他人事と心ここにないふうだった。 ハワイに戻るまでは何とかアメリカ国内の移動ということもあり、以前取得したハワイの運転免許証がパスポートの代わりに身分証明の役割を果たしてくれ問題は無かった。
そして今日、
ラスベガスのポリスでの紛失届出証明書を持って、写真その他書類を完璧に用意して在ホノルル日本国領事館に8時の開館とともに出向き、帰国のための渡航書を申請に行った。書類の不備を指摘するのがある意味職務だと勘違いしているのが公務員に多くいるが、すべて用意された書類に、少しがっかりと見えるが如くに女性スタッフが手続きを開始してくれた。これでやっと明日無事に帰国できると安心して呼び出しを待っていると、「免許証の誕生日とパスポートの誕生日が違いますので、上司が戸籍を日本からFAXしてもらえと言われました。」とそんな面倒なことをここに来て言うのだ。そこで、その違いを上司に直接、これは親が届けた本当の誕生日と役所仕事の怠慢かどうかで2日変わっており、昔はよくあったことで、親から教えられた本当の誕生日も捨てたくないので、その意識があってか、煩わしいお役所手続きを敬遠してこれまで統一しなかったと、そんな内容で答えた。そしたら、「帰国は何とかしますから、一応戸籍を送ってもらうその努力をして下さい」と来やがった。それじゃぁ、嫌がらせと同じじゃないか。実家には風邪をひいて寝込む90近い親父しかいないし、兄姉だって仕事をしていて、時差のあるわずかな1、2時間のそちらの勤務中に煩わせるわけにはいかないよ。田舎に連絡できない理由のある人だって一杯いるんだ世の中には。ペーパワークじゃなくて人を見て仕事をしろよ。同じ日本人が異国で困っているのにアメリカ人顔するんじゃないよ。まぁ、それでやっぱり田舎の姉と役場の後輩に頼んで朝早くから手続きをお願いすることになったが、役場も役場だ。戸籍を取るのに、やれ肉親が役場に出向いてだ、代理人だ、ハンコだと、緊急の場合は事後の手続きで了承するとして、やるべきことをすぐにやるべきだ。このインターネットで世界が繋がってる時代に身分確認なんてどこの国にいてもすぐにできるだろう。全く持って、役所のやる仕事は国民本位ではなく、役人自己保身の極みのシステム堅守しか頭がないようだ。これなら役人は百害あって一利なしの国民の敵としか言いようがないじゃないか。スムーズな国民の生活を何やかやで妨げているのは実は役所だとはいえないか。これ以上多くは言わないが、役人の汚職の問題も、政治家との癒着の問題も、根底はここから来ている。無駄な人員、手続きの簡素化。それより何より臨機応変に人の顔を見て心のある仕事をしろってことだ。
ちょっと、エキサイトをして来たが、今日の帰国にそろそろ夜も明ける頃。それで娘達の反応はかって?
例によって酒の飲み過ぎ、朝帰りのギャンブルをダメ出しされたことはもちろんだが、駄目親父の一端を垣間見て、微妙に付き合い方を変えて来ているような気がする。被害妄想か。 娘達の寝息は今も天使の歌声だが、娘達は今夢の中で、スーパースターになった暁のその自叙伝でこの旅のことをどう語っているのだろう。
ハイライトとなるべく立派なエピソードでなかったことだけは少なくとも確かだ。
2012年2月1日