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From 龍雲

新学期が始まる。

新学期が始まる。幼稚園から小学校へ、小学校から中学校へ、中学校から高校へ、そして高校から大学へ、と言っても大学には行っていないので実感としてわかるのは高校まで。
僕らが卒業する時には必ず唄った『蛍の光』や『仰げば尊し』は最近の卒業式ではあまり唄われていないと聞いたが、まじめな生徒でなかった自分でもこれらの曲を唄う時は、態度は突っ張っていても、思わず涙が目の隅っこに溜まっていたりして、友達に気付かれないようにそっと制服の袖で拭たりしたものだ。
最近では流行りの曲などを唄う学校が増えているらしいが、せめて中学校までは情操教育の上でも、これらの卒業式に定番の名曲を唄ってほしいと思うが、どうだろう。

 

そして、入学式。
真新しい鞄や、少し大きめの制服が、気恥ずかしくもあり、また嬉しくもあり。学校から購入した教科書はページを開く時にも、まだ折り目がつかないようにそっと眺め、それより何と言っても、新しいクラスの中のお気に入りの女の子の席がどこになるのか気が気じゃなく、同じ班になった時の天にも昇る喜び、これらのことが昨日のことのように思い出される。と言いたいがもうずいぶん昔のことなので昨年のことのように、ぐらいか。

 

「お前と同じ中学校出身の娘で髪がこんなで、顔が可愛い娘がいるだろう。その娘の名前、教えてくれ」
「あぁ、あの娘のことか。それは菅野美穂ちゃんて言う娘。小学校も同じよ」

 

高校の入学式の帰りのバスの中で見初めた娘の名前を、入学してしばらくしてから、こうして同じクラスの仲良くなった女の娘からやっと突き止め、きっと付き合いたいと思っていたが、廊下ですれ違っても話しかける勇気もなく、ずっとその名前で妄想していたある日の放課後、自分の下駄箱のフタを開け、スリッパから靴に履き替えて紐を結んでいた時、隣の列にある別のクラスの下駄箱の菅野美穂と名前の書かれたフタが、まるで天岩戸(あまのいわと)が開くように神々しく開けられた。俄に心臓の鼓動が高鳴り、下駄箱に菅野美穂と二人きりでいるのが耐えられなくなり、ほとんど気絶しそうなりながらも、振り向いた彼女の顔をやっとの思いで盗み見たら、何とその娘の顔は僕の妄想してた娘の顔とは違っていた。
こういうことだ。同じクラスのその女の娘が早とちりして、僕が名前を尋ねた娘とは違う娘の名前を教えてくれたと言うわけだ。おかげで名前を菅野美穂とばかりてっきり信じて疑わなかった娘の本当の名前は、実は、松嶋菜々子であることが後でわかった。その後しばらく、妄想して来た名前と顔のイメージ分裂のショックから立ち直れずいるうちに、親友とのバイク遊びに夢中になり、いつしかそんなこともわすれてしまった。

 

とまぁ、ちょっとした僕自身の間抜けな高校入学時のエピソードだが、この時期、あちらこちらの学校でしばらくは新しい環境に慣れずに、こんなほのぼのとした出来事がひょっとして繰り広げられているんじゃないかと思う。
いずれにせよ、この新学期、誰もが希望に胸膨らませているに違いなく、どうかそれを萎ませることなく青春を謳歌してもらいたいものだ。

 

高校二年になって、例の下駄箱で出会った菅野美穂と同じクラスになり、卒業するまで付き合うことになったのは、全くもって不思議と言う他ない。

 

最後に、登場人物の名前はプライバシー保護の観点から、多少の変更を加えている。あしからず。

 

2010年4月1日