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今年3回目のお盆を迎える。

今年3回目のお盆を迎える。
実家のある福岡では、お盆は8月の13日から15日に行われ、そんなものだと何の疑いもなく過ごしていたら、高校卒業後、上京してすぐの頃、ある人に「関東では7月がお盆ですよ」と言われて驚いたことがあったが、辞書によると、もともとは中国では苦しんでいる亡者を救うための仏事として7月15日に行われたものらしく、日本に伝わって日本の祭りと習合して、祖先の霊を供養する、今行われているところの仏事になったとある。一般的にはやはり8月にお盆を行う地域が多いらしいが、7月にお盆を行う地域も少なくないらしい。

 

夕食の買い出しにスーパーに行き、お惣菜売り場をのぞいて賞味期限切れ間近で値引きになりそうなものはないかと首を延ばしていたら、前に立っている老夫婦が、メモを片手に何やら相談し合っていた。老夫婦の目線の先には重箱を模したようなプラスチックの容器に御馳走が詰められ、それが、たくさん並べて置かれてあった。「あ、そうか。沖縄では旧盆がもうすぐで、それで、供え物の御馳走を、お参りに訪れる親戚の人数と照らし合わせたりして買い物しているんだなぁ」と合点がいった。沖縄では今でも一部の地域では旧盆で行うところがあり、沖縄ガスから毎年配られて来る沖縄暦では旧の7月15日は、今年は9月3日となっていた。

 

富山県八尾町で毎年9月1日から3日にかけて行われるお祭り『風の盆』を今年もまた訪ねることができる。2日に富山入りしてライブを行い、その夜、八尾にくり出して『おわら』を見学することにしている。昨年、初めて念願の『風の盆』を体験したがあいにくの雨で、現地の人に言わせると一番盛り上がるのは3日最終日に夜通し行われる夜流し(胡弓や三味線が演奏される中、おわら節を唄い踊り、町を練り歩く)だということであったが、民泊の宿で雨上がりを待つ間にすっかり酔っぱらって寝てしまい、とうとう見ることができなかった。それでも宵の口、町を見学中、通りから見上げた町家の二階で演じられていた『おわら』は期待に背かず幽玄で美しいものだった。編み笠を目深にかぶったおわら装束の男女が、無口に俯きがちに踊る姿に僕の情念は刺激されずにはおかず、なかにし礼さんの歌詞で知り、高橋治さんの小説を読んで感動し、一度はこの目で見てみたいと思った『風の盆』の世界は、実際にこの目で見てやはり僕の歌のテーマにも重なるとても魅力的なものだった。

 

風の神を鎮め豊年を祈願する『風の盆』は、御先祖様の御霊を供養する『人の盆』とは盆は盆でも少し違ったようだが、現世離れした、という点においては互いに同じで、今年3回目の『盆』、せいぜい俗世で汚れた己が魂をぴかぴかに磨いていただいて、存分に癒されて来たいものだと思う。

 

2009年9月1日